
健診は毎年のことだが、その年はいつもに増して行くのが億劫だったように思う。
コロナ禍だったし、行かない理由はあった。病院などの受診を控える人もいるとニュースになっていた。予約を延期することも考えたが、結局私は行った。
どうせいつかは受けなきゃならないのだからと自分に言い聞かせて。
子どもを出産してから疲労感やだるさなど体調が芳しくないことが増えた。若い頃は健康を誇っていた私も徐々に陰りを感じ始めていた。
子どもが小さかったので、非正規で働いていた私は派遣で切られたのをきっかけにしばらく家にいた時期だった。
私の健診施設はいかにも女性向きで綺麗な所だった。インテリアもまるでカフェのようだ。
だからか私はここがセレブな所で見かけ倒しと思っていた節があった。
その日も椅子に座って順番を待ちながら、さっさっと終わらせて帰ろうという気持ちでいた。
胸の超音波検査で呼ばれた。
照明の暗い小さい部屋に入ると、いつもの超音波の画像を見る機械が煌々と光っていた。検査の女性は50代くらいだった。「何か気になる所はありますか?」とキビキビと聞かれた。
「左胸にずっとしこりがあるんですけど、これは良性なんです」
私はずっと毎年答えている通りに告げた。事実私はそう聞かされていた。
かかりつけの婦人科の先生はいつもそう言っていた。
女性は慌てたようだった。「病院で検査は受けた?」「乳腺外科で」
私は少々都合が悪くなった。実はその3年ほど前に乳腺外科で検査を受けたのだが、そこの先生をあることで信用できず私は婦人科にばかり行っていた。
女性は口ごもっている私を見ると、ベッドに横になるように言いテキパキと検査を始めた。
念入りに左胸を、そして脇のリンパ、右胸も超音波の器具を滑らせ画像を真剣に見ていた。
まるで悪いことを予期したかのように。
「診断結果で病院に行くように言われたら、ちゃんと乳腺外科に行ってね」
着替えを終え部屋を出ようとした私の背中に、女性は緊張感のある鋭い声を投げかけた。
メルカリ